coronavirus (詳説)自己モニターとSense of agency

統合失調症の基礎に自己モニター機能の劣化があるとする説があり(CD Frith, The cognitive neuropsychology of schizophrenia, 1992)、この説は、自己モニター機能の劣化が幻覚・妄想・思考混乱などの統合失調症の陽性症状を引き起こしていると主張する。この説はさらに、自分あるいは他人の意図・理解・知識をメタレベルで表現するメタ表現の障害で統合失調症の症候のほとんどが説明できるとする。自己モニターに伴い sense of agency(動作主感覚)が起こる。動作主感覚に関しては注目すべきヒト被験者での研究の歴史がある。

動作主感覚とは自分の行為を自分が制御している、またそれを通じて外界を制御していると感じる感覚である。中枢的経験(行為を意図し、特定の行為を選び、開始する)と抹消経験(実際の動作に伴う体性感覚と動作の結果起こる外界変化)が動作主感覚に必要である。中枢的経験のない不随意運動では、効果器の sense of ownership(所有主感覚)は起こるが、動作主感覚は起きない。

動作主感覚研究は古くは「この行為をしたのは貴方か別人か」という社会的設定の課題を使って行われてきた。しかしこのような社会的設定では良い結果を自分に帰そうとする認知バイアスが現れがちであり、最近では非社会的設定で非明示的に動作主感覚を測る方法が主に使われている。動作(例えばボタン押し)と動作結果(例えば音)の生起時刻を被験者に報告させる Intentional binding 効果(意図による結合効果)パラダイムがその代表である。ボタン押しの一定時間(250 ミリ秒)後に音を鳴らした場合と、ボタン押しだけまたは音だけの場合を比較すると、音を伴う動作の時刻は動作だけの場合よりも後に知覚され、ボタン押し後の音の時刻はボタン押しなしの音より前に知覚される。即ち、動作とその結果が知覚上で互いに引き寄せ合う。動作主感覚が強いほどずれが大きくなる。

Intentional binding 効果パラダイムで動作と結果(音)の関係を確率的にし、音が起こらなかった場合の動作生起知覚時刻を調べると、健常人では、確率 75%のブロックでは確率 50%のブロックに比べて後にずれ、動作からの順向性の影響を示す。統合失調症患者ではこの順向性の影響が消失し、代わりに逆行性の影響(音が出た場合と出なかった場合の動作生起知覚時刻の差)が大きい。

Haggard & Clark (2003)の実験では、被験者は 2.56 秒で1周する文字盤付き時計を見ながらボタンを押した。ボタン押しの 250 ミリ秒後に音が鳴る場合と、ボタン押しと音が随伴しない場合があった。被験者は、ボタン押しまたは音生起の時点での時計の針の位置を、キーボード入力で報告した。音を随伴するボタン押しの時刻は音を随伴しないボタン押しよりも後に知覚され、ボタン押し後の音の時刻は音単独の場合より前に知覚された。

動物に知覚した時刻を報告させるのは難しいと思われるが、ふたつの出来事の間の時間間隔を報告させることはできる可能性がある。Jazayeri らは、ある時間間隔で刺激を3回提示し、3回目の刺激から同じ時間後にサッケードする課題でマカクを訓練することに成功した(Egger et al., 2018)。この方法をベースにしてマーモセットに訓練可能な課題を作り出すことができるかもしれない。