widgets (詳説)反応抑制

支配的または自動的な反応を抑制すること。トップダウン注意と重複する機能概念である。前頭前野以外に前補足運動野および島皮質の関与が指摘されている。マーモセットでの反応抑制のテストには、ゴー・ノーゴー課題と回り道リーチング課題が使えそうである。

ゴー・ノーゴー課題

ゴー・ノーゴー課題

まずゴー反応(例えば、画面上に Q. P, T の文字が出たらできる限り早くボタン押しする)を訓練する。次に、ノーゴー反応(例えば、画面上に X の文字が出たらなにもしない)を導入する。正しいノーゴー反応には報酬を与えない。ゴー試行と比較したノーゴー試行でのエラー(ゴー反応を抑制し損なう)比率および反応時間が成績の指標。反応時間に制限を設けて反応を急がせる。通常はノーゴーの刺激数(および試行数)をゴーよりも少なくして反応抑制の負荷を高める。前頭前野背外側部の両側破壊でノーゴー試行でのエラーが増える(Iversen, Mishkin, Exp Brain Res 11: 376, 1970)。総説として Aron..Poldrack (TINS 8: 170, 2004)。Sasaki&Gemba は主溝背側壁にノーゴー試行特異的なフィールド電位(nogo potential)を発見した(Exp Brain Res 64: 603, 1986)。正しいノーゴー反応にも報酬を出す場合と正しいゴー反応だけに報酬を出す場合とでは神経メカニズムが異なるとの報告もある(Petrides, J Neurosci 6:2054, 1986)。ストップ課題との比較も興味深い。ひとつの行為を抑制してもうひとつの行為を選ぶ他の課題と比べて、ひとつの行為を抑制してなにもしないゴー・ノーゴー課題およびストップ課題は特殊であるとの指摘もある。Remington..Wang (Plos One 7:e47895, 2012)は聴覚刺激を使ったゴー・ノーゴー課題でマーモセットを訓練したと報告しているが、反応窓が長い(5 秒)など普通のゴー・ノーゴー課題と異なる点がいくつかある。

回り道リーチング課題

Wallis..Robbins, Roberts (2001) Dissociable contributions of the orbitofrontal and lateral prefrontal cortex of the marmoset to performance on a detour reaching task. Eur J Neurosci 13:1797-1808.

透明アクリル箱の中の餌を取る。まず正面に穴が開いている場合を訓練する。次に正面を塞ぎ横の穴 2 個を通ってリーチしなければならない場合でテストする。正面から手を突っ込む反応を抑制する必要がある。健常なマーモセットはできた。そして、前頭眼窩野破壊で著しく困難になった。

ストループ課題

ストループ課題

ヒトでは反応抑制のテストにストループ課題がよく使われる。色を表す単語が提示され、文字の色を答える。単語を読むという日常生活で支配的な反応が自動的に励起される。色と単語の読みが不一致の場合は、一致の場合に比べて反応時間が長くなる。不一致条件では内側前頭前野、背外側前頭前野の活動が大きい。動物ではサイモン課題になる。

サイモン課題

サイモン課題

スクリーンの左か右に赤丸か緑丸を提示する。赤なら右、緑なら左にタッチするように訓練する。刺激の位置にタッチする反応が自動的に励起されるために、赤が左に提示された場合と緑が右に提示された場合の反応時間が長くなる。不一致条件はアンチサッケード課題と似ているが、アンチサッケードよりは訓練が容易なのではないだろうか。Matsuzaka et al. (PNAS 109:4633, 2012)はサイモン課題をマカクに訓練した。訓練初期は不一致条件の反応時間は一致条件の反応時間よりも長く、サイモン課題がマカクで反応抑制を調べるタスクとして使えることが示唆された。ただし、Matsuzaka et al. はマカクを更に訓練し、不一致条件と一致条件の間の反応時間の統計的な差がなくなった後に、ルールに基づいた戦略の切り替え時の神経活動を見る目的でこの課題を用いた(参考 執行機能:タスクセットの切り替え)。

アンチサッケード課題

ヒトとマカクでよく用いられる。注視中に注視点の左または右に刺激が提示される。刺激と反対側に向かってサッケードする。反射的に起こる刺激へのサッケード(エラー)の頻度が成績。Pierrot-Deseilligny et al. (Brain 114:1473-1485, 1991)は、補足運動野、前頭眼野、前頭前野背外側部に梗塞のある患者をテストし、前頭前野背外側部に梗塞のある患者でのみ成績が低下したと報告した。一方、O’Driscoll et al. (PNAS 92:925-929, 1995)は正常被験者の PET 測定で、前頭前野背外側部はプロサッケードとアンチサッケードの両方が同じように賦活され、アンチサッケードで特に活動が増える領域は前頭眼野、補足運動野、線条体であると報告した。統合失調症、ハンチントン病、パーキンソン病、進行性核上性麻痺(PSP)、アルツハイマー病で成績が低下する。前頭眼野・補足眼野を含む背側注意ネットワークの働きを調べるために良い課題であるが、マーモセットでの訓練は難しいとの未発表情報もある。