widgets (詳説)前頭前野と空間注意

注意に関する研究の中心は空間的注意(特定の空間位置への注意)である。入力刺激のサリエンシーに駆動されるボトムアップ注意とタスクセットに駆動されるトップダウン注意がある。トップダウン注意には特定の物体への注意もあり、サーチタスクは物体への注意を調べる。特定の反応セット、タスクセット、メンタルセットへの注意もある。ここでは空間注意に関するタスクを議論する。

トップダウン注意

トップダウン注意:Posner Task

Posner 課題

トップダウンの空間的注意を調べるタスクとしては Posner 課題が有名である。標的を検出する反応時間を測定する。標的に先駆けて提示される手掛かりが valid な場合と invalid な場合の反応時間の差を、ボトムアップ条件とトップダウン条件で比較する。

Posner et al. (Q J Exp Psychol 32:3, 1980)

Bowman..Robinson (J Neurophysiol 70:431, 1993)

被験者がレバーを押すと、注視点とその左右に標的提示用枠が提示。左右の枠のどちらかに標的が出る。標的提示後設定時間内にレバーを離したら報酬。標的提示の前に手掛かりを提示。手掛かりは、ボトムアップ条件では刺激枠に与えられ(手掛かりと標的の SOA は 200 ミリ秒程度)、トップダウン条件では注視点の傍に提示される矢印の向きで与えられる。多くは 80%で Valid、20%で Invalid。

Valid と Invalid の間の反応時間の差が測定変数。機能ブロックしたとき、ボトムアップ条件では Valid/Invalid の差が残るが、トップダウン条件で差がなくなる脳部位を、トップダウン注意に特異的に必要な脳部位として同定する。

マカクを使ったたくさんの論文があるが、その多くは、視覚野の神経細胞の標的への反応が手掛かりによってどう変わるかを調べただけで、動物の行動データがないし、トップダウン注意に特異的に必要な脳部位を決めたわけでもない。Bowman et al (1993)はマカクの行動データを詳細に検討した。

ヒトの脳損傷患者の Posner task での行動データに関する総説

Corbetta, Shulman (Nat Rev Neurosci 3:201, 2002)

Hopfinger, West (Neuroimage 31:774, 2005)

Hahn..Stein (Neuroimage 32:842, 2006)

Chica..Lupianez (Behav Brain Res 237:107, 2013)

サーチ課題

トップダウン注意:Posner Task

サーチ課題では特定の物体への注意を用いてトップダウン注意を調べる。

Buschman, Miller (2007) Top-down versus bottom-up control of attention in the prefrontal and posterior parietal cortices. Science 315:1860-1862.

多数の標的の中からサンプルと同じ刺激を選んでサッケードする。Search 条件での平均反応時間は Pop-out 条件の反応時間より長い。標的の位置を表す細胞活動は、Search 条件では前頭前野外側部にまず現れたが、Pop-out 条件では頭頂間溝外壁(LIP)にまず現れた。

ボトムアップ注意

脳損傷のボトムアップ注意への影響は、損傷と反対側の視野へ提示した刺激の検出課題で調べることが多い。反対側の刺激検出能の低下は visual neglect と呼ばれる。また、脳損傷部位と同側視野に刺激を同時に提示することで反対側刺激の検出能が顕著に低下することがあり、visual extinction と呼ばれる。顕著な visual neglect あるいは visula extinction が現れない場合も、反応時間の延長が見られる場合が多くある。一般に反応時間の方が反応成功率よりもずっと感度が高い。

Visual neglect および visual extinction を引き起こす損傷部位としては頭頂連合野がよく知られているが、前頭前野後部(前頭眼野および補足眼野を含む)の一側破壊または機能ブロックでも visula neglect、visual extinction あるいは反応時間延長が起こる。

Adam..Everling (J Neurophysiol 122:672, 2019)は、左右の標的のどちらかを自由に選ぶ自由選択サッケード課題でマカクを訓練し、前頭眼野の一側機能ブロックによる標的検出・サッケードへの影響を検討した。

フリービューイング

ボトムアップ注意:フリービューイング

入力刺激のサリエンシーに駆動されるボトムアップ注意はフリービューイングでも調べることができる。静止画または動画を提示し、自由に見ている間の眼球位置・運動を測定する。革新脳ヒト臨床研究小池 G の三浦らは、統合失調症患者で探索眼球運動が乏しいことを観察した(右、模式図)。詳細は Morita, Miura, Fujimoto, Yamamori, Yasuda, Iwase, Kasai, Hashimoto (Psychiatry Clin Neurosci 71:104-114, 2017)を参照。

Chen (J Neurophysiol 125:437-457, 2021)はマーモセットが動画を自由に見ているときの眼球位置・運動とマカクおよびヒトのそれと比較して、おなじボトムアップ注意モデルで 3 動物種の注視点移動が説明できることを示した。