widgets (詳説)タスクセットの切り替え

執行機能の3番目の基本要素として Cognitive flexibility がある。Cognitive flexibility は、現在の視点とは異なる位置から見た物体像を想像する空間的 Cognitive flexibility、物事を別な側面から考える機能(thinking outside the box)、自分の考えの間違いを認めて別な考えを試すこと、などを含み、ヒトでは unusual uses task、verbal fluency、category fluency などでテストされる。よく制御された実験室テストとしては、タスクセットの切り替え(Flexibly switch back and forth between tasks or mental sets)でテストされることが多く、中でもセットとして刺激―行為マッピングを使うことが多い。切り替えのたびにタスクを学習し直しているのでなく、すでに学習されたタスクの切り替えをしていることを確かめる必要がある。反応抑制の場合と異なり、同程度に容易な複数のタスクを用いる。

2次元の刺激を用いた刺激―行為マッピング規則の切り替え

刺激を2次元(図形の色と形、あるいはドットパターンの色と運動方向)にし、注目すべき刺激次元を切り替える。次元ごとに、特定の刺激特徴を特定の行為(例えば異なる方向のボタン押し)にマップする。実行すべき規則(注目すべき次元)は手掛かり刺激で指定する。数十試行のブロックごとに規則を変更する場合と、試行ごとにランダムに指定する場合がある。ブロックの方が日常環境に近い。マーモセットではヒトと異なる色覚を持つ個体が多いので色を用いる場合は注意が必要。

J Neurosci 21:4801

Sakagami..Hikosaka (2001) A code for behavioral inhibition on the basis of color, but not motion, in ventrolateral prefrontal cortex of macaque monkey J Neurosci 21:4801

緑または赤のドットパターンが上向きあるいは下向きに動く。注視点が青のときは緑ならゴー、赤ならノーゴー、注視点が赤のときは上向きならノーゴー、下向きならゴー反応をすると、それぞれ報酬が与えられる。

Mante..Newsome (2013) Context-dependent computation by recurrent dynamics in prefrontal cortex, Nature 503:78

Nature 503:78

緑と赤のドットが混じったランダムドットパターン。一部のドットが右向きまたは左向きに動き、他のドットはランダムに動く。注視点が黒十字のときは多い色のドットと同じ色の標的にサッケード。注視点が黄丸のときは一部のドットがコヒーレントに動く方向の標的にサッケード。

遅延見本合わせ課題と遅延非見本合わせ課題の切り替え

Wallis, Anderson, Miller (2001) Single neurons in prefrontal cortex encode abstract rules. Nature 411:953

遅延見本合わせ課題と遅延非見本合わせ課題を混ぜた。規則は試行ごとに変え、サンプル提示期の背景色または報酬有る/無しで指示した。日毎に変わる 4 個の刺激を繰り返し用いた。前頭前野主溝領域、前頭眼窩野外側部、運動前野背側部の多くの細胞の活動が規則を表した。

刺激逆転学習

歴史的には刺激逆転学習が Behavioral flexibility のテストとしてよく用いられてきた。S+(報酬と連合した刺激)と S-(報酬と連合してない刺激)を同時に提示し、S+を選択させる。ブロックごとに S+と S-を逆転する。刺激と報酬の連合を確率的(例えば S+と S-の選択に対しそれぞれ 70%と 30%の確率で報酬を与える)にしたのが確率的刺激逆転学習。報酬予測誤差による強化学習の枠組みで学習行動を整理できるメリットがある。確率的の場合はモデルベーストの Win-stay loose-shift 戦略が取れなくなる。逆転後は、前のブロックでの連合の記憶を抑制した後、新しい連合を再学習する。逆転学習では尾状核の関与が大きい。

ウィスコンシンカード分類課題

ウィスコンシンカード分類課題およびその類似タスクではタスクを示す手がかり刺激がなく、被験体は試行錯誤で現在有効なタスクを探しこれを試行を越えて維持する必要がある。この場合は、タスクセットの切り替えとは別の要素機能を課することになる。

ヒトでタスクセットの切り替えのテストに用いられてきた代表的なタスク

Plus-minus task

Plus-minus task

Spector, Biederman (1976) Mental set and mental shift revisited. Am J Psychol 89:669.

紙と鉛筆を用いる。10~99 の中からランダムに選びランダムな順にした 30 個の数字リスト 3 個を用いる。リスト1ではそれぞれの数字に3を足した結果を(30 回)書く。リスト2ではそれぞれの数字から3を引いた結果を書く。リスト3ではそれぞれの数字に 3 を足すと 3 を引くを交互に行う。リスト1とリスト2での所要時間の平均からリスト3での所要時間への増加を、タスクセット切り替えのコスト指標とする。

Number-letter task

Number-letter task

Rogers, Monsell (1995) Costs of a predictable switch between simple cognitive tasks. J Exp Psychol: General 124:207

数字とアルファベットの組み合わせ。上の象限に提示されたらアルファベットが母音か子音かを左右のボタン押しで答える。下の象限に提示されたら数字が奇数か偶数かを左右のボタン押しで答える。図では試行ごとのタスクが提示されているが、実際は提示されない。ボタン押しの 150ms 後に次の刺激が提示される。各ブロックあたり 32 個の刺激が提示され、総所要時間を測定する。ブロック1では母音/子音だけを答え、ブロック2では奇数/偶数だけを答え、ブロック3では2回ごとにタスクが替わる。ブロック1とブロック2での所要時間の平均からブロック3での所要時間への増加を、タスクセット切り替えのコスト指標とする。

Local-global task

Local-global task

Navon (1977) Forest before trees: the precedence of global features in visual perception. Cog Psychol 9:353.

丸、X、正三角形、正方形で構成された丸、X、正三角形、正方形を提示し、青ならば全体図形の線の数を、黒ならば局所図形の線の数を答える。各試行の反応時間を測る。答えたら 500ms 後に次の刺激が提示される。青と黒の刺激を混ぜて 96 個提示し、前試行からタスクが変わった試行での平均反応時間と、同じタスクが維持された試行での平均反応時間の差をタスクセット切り替えのコスト指標とする。