widgets 6. 動機づけ

動機づけは「目的指向的行動を開始し、持続・調整する、そしてその活力を駆動する機能」と定義される。目的には、生体維持に直接関わる1次的動機と間接的な2次的動機が区別され、2次的動機には知的好奇心、社会的な功名心(周りに認められたい)が含まれる。

目的指向性に重要な脳部位をマーモセットで調べた研究として Duan..Roberts, Robbins (2021)を紹介する。

一方、「その活力を駆動する機能」という部分に注目すれば、長い遅延後に与えられる報酬へ向けた行為、また多くの努力を必要とする行為の生起メカニズム研究は動機づけ研究の重要な要素である。サルでの研究報告はないので、ラットの研究(Rudebeck..Rushworth, 2006)を紹介する。ラット用からマーモセット用に変更できるのではないか。

臨床では、動機づけに特異的な障害をアパシー(意欲障害)と呼ぶ(小林祥泰編、脳疾患によるアパシーの臨床:改訂版、2016)。Levy, Dubois (Cereb Cortex 16:447, 2006)は、アパシーの原因を以下のように3区分した。

  1. 情動的処理の障害(現在/未来の行動とそれが持つ情動的な情報・価値を連合することの障害。前頭眼窩野、前頭葉内側部、腹側線条体、腹側淡蒼球の損傷で起こる)。概ね目的指向性に対応。
  2. 認知処理の障害(ゴールの維持障害、認知セットの変換障害、ルールを見出すことの障害。前頭葉背外側部あるいは尾状核背側部の損傷で起こる)
  3. 心的自己賦活の障害(思考や行動における自己賦活の障害。尾状核、淡蒼球内側部、視床背内側核、前頭葉内側部、広い前頭葉白質の損傷で起こる)。「活力駆動」と関係が深い。

目的指向性を調べる課題

Duan..RobertsRobbins (Neuron 109:2485-2498, 2021)

目的指向性を調べる課題

マーモセット機能ブロック行動実験。ベース1ではスクリーン左に刺激があり(出っ放し)、刺激を触る(1 秒に1回まで)と 10%の確率で苺ジュースが与えられる。ベース2ではスクリーン右に刺激があり、刺激を触る(1 秒に1回まで)と 10%の確率で葡萄ジュースが与えられる。テスト1はベース1と似ているが、無反応の 1 秒に 6.7%の確率で苺ジュースが与えられる(行為―結果随伴が崩れる)。テスト2はベース2と似ているが、無反応の 1 秒に 6.7%の確率で苺ジュースが与えられる(行為―結果随伴は崩れない)。テスト1/ベース1の反応数の比とテスト2/ベース2の反応数の比を比較して、行為の目的指向性を評価する。正常動物では~0.6 vs. ~1.0 で目的指向的だった。いろいろな領野に muscimol/baclofen 混合液または CNQX(グルタミン酸受容体のアンタゴニスト)を注入(機能ブロック)。24a 野および尾状核頭部の機能ブロックで目的指向性が失われた。11 野機能ブロックで目的指向性が増強された。32 野、14 野、25 野の機能ブロックで影響なし。

活力の維持を調べる課題

活力の維持を調べる課題

Rudebeck..Rushworth (Nat Neurosci 9:1161-1168, 2006)をサル用に変更した。サル版は実際に使われてはいない。3 個の刺激が報酬条件を表す。刺激1はすぐに少量の水、刺激2は 15 秒待って多量の水、刺激3は重い仕事(強い反力に逆らってレバー回し)の後多量の水。遅延テスト試行では刺激1と2を提示してどちらかを選ばせ、コストテスト試行では刺激1と3を提示してどちらかを選ばせる。