widgets (詳説)動機づけ

動機づけは「目的指向的行動を開始し、持続・調整する、そしてその活力を駆動する機能」である。目的指向的行動は、刺激―行為連合による駆動される習慣的行動でなく、まず結果のイメージが起こり、その結果をもたらす行為を行為―結果連合を使って駆動する行動である。目的指向的行動には内側前頭前野が大事であるとの指摘がある。

「目的指向性行動」に注目すれば、刺激―行為連合による習慣的行動との区別が重要である。行動が目的指向的になるために重要な脳部位を同定し、そのメカニズムを決める必要がある。目的指向的行動の目的には、生体維持に直接関わる1次的動機と間接的な2次的動機が区別され、2次的動機には知的好奇心、社会的な功名心(周りに認められたい)が含まれる。

「その活力を駆動する機能」という部分に注目すれば、長い遅延後に与えられる報酬へ向けた行為、また多くの努力を必要とする行為の生起メカニズム研究は動機づけ研究の重要な要素である。

臨床では、動機づけに特異的な障害をアパシー(意欲障害)と呼ぶ(小林祥泰編、脳疾患によるアパシーの臨床:改訂版、2016)。Levy & Dubois (Cereb Cortex 16:447-456, 2006)は、アパシーの原因を以下のように3区分した。

  1. 情動的処理の障害(現在/未来の行動とそれが持つ情動的な情報・価値を連合することの障害。前頭眼窩野、前頭葉内側部、腹側線条体、腹側淡蒼球の損傷で起こる)
  2. 認知処理の障害(ゴールの維持障害、認知セットの変換障害、ルールを見出すことの障害。前頭葉背外側部あるいは尾状核背側部の損傷で起こる)
  3. 心的自己賦活の障害(思考や行動における自己賦活の障害。尾状核、淡蒼球内側部、視床背内側核、前頭葉内側部、広い前頭葉白質の損傷で起こる)

目的指向性

Duan..RobertsRobbins (2021) Controlling one’s world: Identiication of sub-regions of primate PFC underlying goal-directed behavior. Neuron 109:2485-2498.

Neuron 109:2485-2498.

マーモセット機能ブロック行動実験。ベース1ではスクリーン左に刺激があり(出っ放し)、刺激を触る(1 秒に1回まで)と 10%の確率で苺ジュースが与えられる。ベース2ではスクリーン右に刺激があり、刺激を触る(1 秒に1回まで)と 10%の確率で葡萄ジュースが与えられる。テスト1はベース1と似ているが、無反応の 1 秒に 6.7%の確率で苺ジュースが与えられる(行為―結果随伴が崩れる)。テスト2はベース2と似ているが、無反応の 1 秒に 6.7%の確率で苺ジュースが与えられる(行為―結果随伴は崩れない)。テスト1/ベース1の反応数の比とテスト2/ベース2の反応数の比を比較して、行為の目的指向性を評価する。正常動物では~0.6) vs ~1.0 で目的指向的だった。いろいろな領野に muscimol/baclofen 混合液または CNQX(グルタミン酸受容体のアンタゴニスト)を注入(機能ブロック)。24a 野および尾状核頭部の機能ブロックで目的指向性が失われた。11 野機能ブロックで目的指向性が増強された。32 野、14 野、25 野の機能ブロックで影響なし。Jackson..Robbins, Roberts (Cereb Cortex 26:3273, 2016)は似たタスクで少し違った結果を得た。

Matsumoto..Tanaka (2003) Neuronal correlates of goal-based motor selection in the prefrontal cortex. Science 301: 229-232.

Science 301: 229-232.

Differential outcome effects を使って目的試行的な行為選択を実現。ふたつの刺激に異なる行為(Go と Nogo)をさせる。一方の行為にはジュース、もう一方の行為には音による成功告知のみをフィードバック。刺激―行為―結果の組み合わせが約 40 試行ごとに交代。両方の行為にジュースを与えると、学習が著しく遅くなること(Differential outcome effects)で、刺激―行為連合による学習でなく、刺激から結果を予測し、その結果と連合した行為を選んでいたことを確かめた。内側運動前野の細胞の刺激後の反応が特定の行為―結果の組み合わせを表現した。

活力の維持

Nat Neurosci 9:1161-1168.

Rudebeck et al. (2006)をサル用に変更した。サル版は実際に使われてはいない。3 個の刺激が報酬条件を表す。刺激1はすぐに少量の水、刺激2は 15 秒待って多量の水、刺激3は重い仕事(強い反力に逆らってレバー回し)の後多量の水。遅延テスト試行では刺激1と2を提示してどちらかを選ばせ、コストテスト試行では刺激1と3を提示してどちらかを選ばせる。

Rudebeck..Rushworth (2006) Separate neural pathways process different decision costs. Nat Neurosci 9:1161-1168.

ラット破壊行動実験。長く(15 秒)待って 10 個の餌を得るか、待たずに 1 個の餌をもらうかの選択(a)と、高い障害を登って 4 個の餌を得るか障害なしに 1 個の餌を得るかの選択(b)。

OFC 破壊では長く待って大報酬を得る選択の割合が低下し、ACC 破壊では大きな努力をして大報酬を得る選択の割合が低下した。

Prevost..Dreher (France), Sep arate valuation subsystems for delay and effort decision costs, J Neurosci 30:14080-14090, 2010

ヒト fMRI。扇情的な絵を低コストで短く(1 秒)見るか、高コストを払って長く(3 秒)みるかを選ぶ。絵が出るまで一定時間(1.5~9 秒)待たされるの試行と、絵を見る前にグリップボールをある強さ(その被験者の最大値の 15~90%)で握る試行がある。ぼやかした報酬の絵が提示された後、コストの量(待ち時間または握る力)が提示され、受け入れ/拒否するの判断をする。拒否すれば最低コスト(1.5 秒または 15%の力)、受け入れれば指定コストを払った後、絵が提示される。待ち時間でも、握り作業でも、コストが高くなるほど受け入れる割合が減った。

腹内側前頭前野と腹側線条体は予測報酬量(絵の魅力)minus 待ち時間を正に表した。前帯状皮質と島前部は予測報酬量 minus 握り作業コストを負に表した。

J Neurosci 29:4531

Croxson..Rushworth (2009) Effot-based cost-benefit valuation and the human brain, J Neurosci 29:4531

ヒト fMRI。手掛かりの横線の縦位置が報酬量、縦線の横位置が作業量を示す。3、4、15、または 20 個の標的をカーソル位置を合わせて消す作業をすると、報酬が与えられる。選択のない点に問題あり。

背側前帯状皮質、腹側線条体などが予測報酬 minus 作業コストを表したが、前頭眼窩野後部と島は予測報酬だけを表した。