widgets (詳説)メタ認知

自分の認知の状態を認知すること。現在進行中の自分の思考や行動そのものを対象化して認識することにより、自分自身の認知行動を把握し、改善することができる。メタ認知については脳損傷患者での研究、fMRI を使ったヒトでの多くの研究がある。マカクおよび齧歯類を使った研究も数は少ないがある。メタ認知には前頭前野が重要な働きをするとの結果が多いが、一部には前頭前野は必ずしも必要ないとする研究もある。メタ認知の脳メカニズムを調べた脳科学的研究では、専ら認知精度の自信を調べていて、メタ認知の結果による認知過程の制御はまだ対象になっていない。メタ記憶とメタ認知のメカニズムは異なり、メタ記憶には前頭前野は必ずしも必要ないとの結果もある。

Escape パラダイム

Kiani, Shadlen (2009) Representation of confidence associated with a decision by neurons in the parietal cortex. Science 324:759-764.

Science 324:759-764.

ドットパターンの動きの向き(左/右)をサッケードで答える基本タスクに、escape target(黒丸)を加えることで自信を測定。escape target を選ぶと少量の報酬が得られる。

自信の低さでなく動きが弱いという知覚結果によって escape target を選んでいる可能性がある。意思決定後賭けパラダイムの方が問題が少ない。

意思決定後賭けパラダイム(Post-decision wagering paradigm)

Middlebrooks, Sommer (2012) Neuronal correlates of metacognition in primate frontal cortex. Neuron 75:517-530.

Neuron 75:517-530.

標的位置へのサッケードをする Decision stage の後に報酬パターンを選ぶ Bet stage。標的のすぐ後にマスクが出るので標的位置の知覚が難しい。Bet stage で緑を選べば低リスク低リターン、赤を選べば高リスク高リターン。

宮本と宮下は、再認記憶課題に意思決定後賭けパラダイムを適用し、記憶課題で正解した確信度の高い試行ほど、high-bet オプションを選ぶ確率が高くなることを示した。そして前頭極や背側前頭前野が自信の評定に貢献することを見出した。

Miyamoto..Miyashita (2017) Causal neural network of metamemory for retrospection in primates, Science 355:188-193

Miyamoto..Miyashita (2018) Reversible silencing of the rontopolar cortex selectively impairs metacognitive judgment on non-experience in primates, Neuron 97:980-989

Miyamoto..Miyashita (2021) Conversion of concept-specific decision confidence into integrative introspection in primates, Cell Rep 38:110581

意思決定後賭けパラダイムを使うタスクをマーモセットに訓練するのは難しいかもしれない。その場合は、Kepecs et al. (2008)の報酬待ち回避パラダイムが良いかもしれない。

報酬待ち回避パラダイム

Kepecs..Mainen (2008) Neural correlates, computation and behavioral impact of decision confidence. Nature 455:227-231.

Nature 455:227-231.

ラット。中央で臭 A と臭 B の混合を嗅がせ、A の割合が大きければ左、B の割合が大きければ右に頭を突っ込む。正しい方を選べば水を得る。差が小さいときに判定の精度は下がった。次に水付与に2〜8 秒の遅延を付け、ラットが水が出るまで待たずに次に試行を始めることを認めた。正答では精度が低い条件でスキップの確率が増し、誤答では精度が高い条件(まれに間違えたとき)にスキップの確率が高かった。ラットが反応の自信をモニターできていると主張。ただし自信の測定は、意思決定後賭けパラダイムでの回答の場合よりも間接的。

Schmack..Kepecs (2021) Striatal dopamine mediates hallucination-like perception in mice. Science 372:eabf4740

マウス。ノイズでマスクされたトーンを検出し、トーンが出たら左、出なかったら右へ行く。正しければ 95%の確率で水を与える。水を遅延され、スキップの確率でマウスの自信を測る。証拠が乏しいが自信が高い場合を hallucination と捉え、その試行では線条体のドーパミンレベルが予め上がっていることを示した。

SC Kwok らが、同様のパラダイムをマカクに適用し、TMS で PFC を刺激する研究を行っている(Cai et al. 2021; bioRxiv)。

Tsujimoto..Wise SP (2010). Evaluating self-generated decisions in frontal pole cortex of monkeys. Nat Neurosci 13:120-126.

Go cue が出たら左または右の標的にサッケードする。注視中に与えられる手掛かり(注視点上の刺激またはジュースの量)で前の trial と同じ標的へサッケードする(stay)か、逆側へサッケードする(shift)かを指示する。前頭極(FPC)の細胞活動を記録。FPC の有意な活動は decision が行われるフェーズには見られず、saccade の後の feedback フェーズのみにあった。著者らが議論するように、FPC が内的に選択した行為をモニターし、その情報をフィードバック時に想起していたのかもしれない。

媒介知覚(Sense of agency)

メタ認知と重複する概念として媒介知覚(sense of agency)がある。自分の行為およびその結果を自分で制御しているとの知覚。媒介知覚の脳メカニズムをサルで調べた研究はまだない。媒介知覚の総説としてhttps://www.nature.com/articles/nrn.2017.14